Le Scarpette Rosse : 05
        <アカイクツ>  















ディーノが応えると、扉はゆっくりと開かれた。
腹心の部下、ロマーリオの笑顔が覗く。

「ボス、お連れしたぜ」
「ありがとな、ロマーリ」
「何様だ、テメェ。あぁ? いきなり連れて来やがって」
「わ、悪かったよ、ミツキ……」

究極に不機嫌な声。
身を竦めて謝ると、ロマーリオが苦笑しながら満月を促した。

「家具の配置が変わってな。ミツキさん、こっちだ」

声に導かれるように椅子の背凭れと肘掛けに触れた満月は、腰を下ろし、尊大に脚を組んだ。

「下らない用なら『踊らせる』」
「違ェよ! ……ん? どうだろう」
「覚悟しろ」
「待てって! ツナの事だ、ツナ!」
「ツナ?」

不思議そうに聞き返した満月を見て、ディーノはあれ、と声を上げた。

「会ってきたんじゃないのか? ジャッポーネ行ってたんだろ?」
「ああ、綱吉か。それが?」
「いや、お前的にはどうだったかなーって、さ」

綱吉が十代目に就任したら、満月はリボーンと共に相談役にするのだと、九代目に聞いていた。
優しいが臆病な綱吉を、満月は認めてくれるだろうか。
不安げな九代目にディーノは軽く笑ってみせたが、確たる自信があったわけではない。

「ボス、はいコーヒー」
「あ、悪いな」
「ミツキさん、ここ置くぜ」

カップが置かれてから、満月はテーブルを指で軽く叩いた。
コンコン、と音を響かせ、そっとマグの取っ手を持つ。
今にもカップと触れ合おうとする彼の唇が、弧を描いた。

「アイツ、俺に文句言いやがった」

お? とディーノとロマーリオは目を見張った。
満月は楽しそうにカップを傾け、テーブルに戻す。

「行くだけ無駄かと思ってたが……なかなか見込みがある」
「そりゃあ良かった」

ディーノはホッと息をつく。

「昔のお前よりマシだった。ああ、お前は今も大差ねぇか」
「っ、相変わらずキッツイな」
「いや、ボスもたまには喝入れてもらわねぇと」

けらけら笑うロマーリオが憎い。
澄ました顔でコーヒーを飲みながら、満月は懐中時計を取り出し、針に触れている。

「……用はそれだけか? ディーノ」
「あ、ああまぁ……飯でもどうかとは思ってるけど」

ぐいと大きくカップを傾け、彼はそれをテーブルへ戻した。

「帰る。送れ」
「そんな急いでんのか?」
「あぁ?」

声が再び刃をはらんだ。
ファミリーを束ねるボスとその側近が、恥ずかしい事だが二人揃って鳥肌の立った腕を抱いた。

「誰のせいだと思ってる。ったく……空港から拉致りやがって。ボンゴレに連絡も入れてねェ、」

放っておけば延々と続きそうな愚痴。

「\世にも顔見せてねェし、」

降参、と両手を挙げる。

「第一こっちは長旅で疲れてるっつーのに、」

彼の愚痴は止まらない。
ディーノは急いで口を挟んだ。

「悪かった悪かった! 送るから」

満月は唇を引き結び、黙って立ち上がる。
言うより先にロマーリオが扉を開けた。
ディーノも立ち上がり、満月に腕を差し出した。

「要るか?」
「で? 俺にも階段から落ちろと」
「落ちねェよ! ロマーリオもお前も居るし!」
「でも前にボス、ミツキさんも巻き込んだよな」
「……」

ほらみろ、とばかりに鼻で笑った満月。
こちらが唸っている間にも、彼は扉へ向かっている。

「お前の屋敷すら歩けないと見られるようじゃ、『赤い靴』も堕ちたもんだぜ」
「……悪かったよ」

今日は謝ってばかりだ。
とぼとぼと後を着いていくと、ロマーリオが励ますように背中を叩いてくれた。
痛かった。









三人揃って車に乗り込む。
満月が窓枠に肘をついて、視線を外に向けた。

「……綱吉は、\世と似てるのか?」
「どうだろうなぁ。ああでも、笑い方は似てるかも。柔らかい」
「そうか」

その漆黒と見つめ合うことは、今までもこれからも、無い。









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100613