Le Scarpette Rosse : 03
        <アカイクツ>  















「ぐぴゃっ!」
「あぁ?」
声を上げて転げたランボに、男がサングラスを向ける。
「あら! いらっしゃい、ミツキ君!」
「Ciao、奈々。相変わらず綺麗な声だな」
「もう、褒めても何も出ないわよ。みんなー、今日はご馳走よー!」



「(ホントに知ってた!)」









ベッドを背もたれにするように、座る男。
綱吉はリボーンの策略で、彼の目の前に無理矢理座らされた。

「しかしよく来たな」
「あぁ? 仕事がてら寄っただけだ」
「にしては手回しが早かったじゃねぇか」

リボーンの言葉に、彼がぴくりと眉を動かした。
獄寺が慌てて口を挟む。

「あっと……お久しぶり、っす、ミツキ」

ミツキと呼ばれたその人が、僅かにそちらへ顔を向けた。

「……隼人か?」
「はいっ」
「デカくなりやがって。声が変わったな」
「あ、そりゃまぁ」

息を吐き出すような、短い笑い声。
長い指がサングラスに掛かった。
現れたのは、髪と同じ、漆黒の瞳。
まっすぐに見つめられ、思わず綱吉は背筋を伸ばした。

「俺は、ミツキ・ヴィオーラ。漢字では『満月』と書くらしい。隼人に聞いたかもしれねぇが、ボンゴレの掃除屋だ」
「あ、えっと……」

何か話さなきゃ。
そう思うものの、緊張しすぎて言葉が出てこない。

「名前は?」
「さ、沢田綱吉ですっ」

促された言葉に慌てて答える。

「んなに固くなってんじゃねぇよ。十代目になるってヤツが、情けねぇ」
「って、誰のせい!? ……あっ」

いつもの調子で突っ込んで、慌てて口を押さえた。
獄寺が両手で目を覆っている。
ミツキ――満月の眉が、ぴくりと動いた。
伸びてくる腕。

「ひいっ!」

思わず身を竦めると、わしわしと髪を掻き混ぜられた。

「……へっ?」

恐る恐る、目を上げてみる。
切れ長の瞳が、こちらを見下ろして細められていた。
喋り方からは想像の出来ない、優しい微笑。

「それくらい強気じゃなくてどうすんだ。将来お前は、俺の上に立つんだぜ」
「は、はい……」

見惚れたまま頷けば、リボーンにふ、と鼻で笑われる。
我に返った。

「よく言った。見直したぞ、ツナ」
「惚れ直しました、十代目!」
「違っ、これは!」

嵌められた!?
慌てて満月を見る。
再びサングラスを掛けた漆黒の男は、それこそマフィアらしく口許を歪め、笑っていた。

「おおおオレは、マフィアのボスになんかなりませんっ!」
「讃えろ、リボーン」
「ああ。後で美味いエスプレッソを奢ってやる」

ニヒルな笑みの応酬。

「話聞いてぇぇぇ!!」
「ツナー、お茶とお菓子取りに来てー」

階下から聞こえる暢気な母の声に、涙が出そうになった。









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