Le Scarpette Rosse : 02
        <アカイクツ>  















「情けないぞ、もっと獄寺を見習え」
「獄寺君を? そんなの無理だって!」
「いえ、十代目ならきっと出来ます!」

某国家の、某裏社会絡みの騒動に、何故か巻き込まれている毎日。
けれど今日は、獄寺が何かをしでかすこともなく、死ぬ気弾を撃たれることもなく、比較的穏やかな一日だった。
というか、恐らくこれが、日本の中学生の一般的な一日だろう。

「帰ったら死ぬ気で勉強だな」

……肩に乗っている赤ん坊のことは、もう気にしない。

「俺も手伝いますよ!」
「えー!? い、いいよ、やめてよ」

綱吉は肩を跳ね上げつつ、角を曲がった。
足が、止まる。









漆黒の旅行鞄に腰掛け空を見上げる、漆黒のスーツの、多分、男性。
無造作に纏められていた筈の黒い短髪が風に遊ばれる様子は、さながら芸術のよう。
その場所が自分の家の塀の前だというのがなんともミスマッチなのだが。

「わ……」

強烈なモノクロのコントラストに、魅せられる。









隣を見れば獄寺が煙草すら落として、口をあんぐり開けながら彼を指差していた。
よく考えれば、その男の風貌は、明らかにマフィア関係者。
嫌な予感と共に、肩の上の家庭教師に目を遣る。
リボーンが、ニヤリと笑った。

「――Le scarpette rosse……」
「Ciao、リボーン。てことは……お前が沢田綱吉か」

腹の底に響くようなハスキーボイスが、耳を擽る。
背筋にぞくっと震えが走り、綱吉は彼に応える事が出来なかった。
リボーンに頬を突かれる。

「おい、ツナ」
「じゅ、十代目、早く!」

我に返った瞬間、先程まで離れた場所にいたはずのその人を、すぐ目の前に確認した。
疑問に思う間もなく、人差し指で顎を上向かされる。
サングラス越しの瞳は、限りなく鋭い。

「テメェ」
「……ひっ!」
「俺の言葉にはすぐに答えろ。返事が無ければ死んだものとみなす」
「(えぇ!?)は、はい!!」

なんて理不尽、どころではなくて、なんて無茶な理屈だろう。
あまりにも拙い声を出してしまった。
殺される。
へたりこみそうになった綱吉を前に、しかし男は満足気に笑った。
リボーンが、ぴょんと彼の肩に跳び移る。

「立ち話もなんだし、中入れ」
「ああ」
「え……ちょ、お前何勝手なこと……!」

赤ん坊は僅かに振り返り、あっさり言った。

「ママンもこいつが来る事は知ってる筈だぞ」
「何で!?」

綱吉の疑問には答えず、リボーンを肩に乗せた男は「邪魔するぜ」と玄関をくぐっていった。

「ご、獄寺くん、あの人……」

共にその場に残されてしまった獄寺に顔を向けると、彼はごくりと唾を飲み込んだ。

「あれは『赤い靴』。ボンゴレ九代目の義理の息子です」
「息子?」
「ええ。あ、大丈夫ですよ、十代目。さっきの、多分怒ってない筈ですから」

獄寺の苦笑に若干の安心を得るものの、あの鋭い目は忘れられない。
綱吉は思わず、鳥肌が立った自分の腕を抱いた。

「ほ、ほんとに?」
「多分、大丈夫です。先の十代目候補選びでは、沢田綱吉派のバックについたそうですし」
「ちょっと待って、それって……」

自分を十代目に、と推すグループのバックに、九代目の養子。

「あの人のせいでリボーンが来たってこと!?」









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