Le Scarpette Rosse : 01
        <アカイクツ>  















大きな屋敷のテラスで、黒いスーツを纏った青年がパスタを食べている。
彼の視線が庭に向くことは、無い。
サングラスの奥の瞳は漆黒で、彼の髪の色と全く同じだった。
光を跳ね返すのは、白いシャツと白い肌。
強烈なモノクロのコントラスト。



青年が、顔を上げる。



「いつまで見てやがる、家光」
「っと、バレちまったか」

バレていたのは、分かっていた。
沢田家光は頬をかきながら青年の傍へ向かう。
横目に見た庭は、暖かな日の光に包まれて、花々が鮮やかに色付いていた。

「前、座るぞ」
「好きにしろ」
「それ美味そうだな」
「何の用だ」

傍らの水をくいと傾け、またパスタの中にフォークを突き立てる。
今日はどこか機嫌が悪そうだ。

「いや、な。会議の礼を言いに」
「会議?」
「ほら、俺の息子の推薦」

矢継ぎ早の会話が一度途切れた。
まるで考えているような素振りだが、ただ口の中のパスタを飲み込んでいるだけのようにも思える。
暫くして、彼が頷いた。

「……ああ、十代目決めるやつ」
「それそれ」

ボンゴレファミリーでは現在、次期ボスとなる十代目を誰にするかが世間話の中心になっていた。
候補とされていた九代目の三人の甥は死亡。
実子ザンザスは幽閉。
残る候補は自分の息子・綱吉と、今目の前に座っている九代目の養子・ミツキの二人だけだった。

「何で候補を降りたのか、聞いてもいいか?」
「あぁ? んだよ、不満か」
「不満じゃなくて疑問だ。つーか何で今日そんなに機嫌悪いんだ」
「テメェのせいで鳥の声が聞こえなくなった」
「わ、悪かったな……」

テラスで食事を摂る際、彼が楽しみにしているのが鳥の声だった。
やっと思い出すが、時既に遅し。

「綱吉が良かったわけじゃねぇ」

唐突に、彼が言った。

「血族の方が良いと思っただけだ」

フォークを皿に置き、彼はまた口に水を含んだ。
喉を鳴らして、ナプキンで口許を拭う。
しかし、彼が口許を汚して食事をすることは無いので、意味を持たない行為だろうと家光はいつも思っている。
彼曰く、ただの習慣らしい。

「はっ、やっとくたばったか、家光」
「いやいやいや、……ああ、すまん」

「あー」でも「うー」でも、咳払いでも、返事をしないと彼はこちらを認識してくれない。
不意に、室内に繋がるガラス扉が開いた。

「失礼します」

入ってきたのは部下のオレガノ。
彼女は家光ではなく彼に目を向けた。

「ミツキ様、九代目がお呼びです」
「今行く」
「ここ、開けておきますね」
「ああ」

では、と答えて出ていくオレガノ。
彼が立ち上がる。家光は皿の残されたテーブルに肘をついた。

「まぁ、なんだ。推してくれて、ありがとな」
「……お前が言うと気持ち悪い」
「ひでぇ!」

ようやく見えた笑み。
背中に声を掛けた。

「今から『仕事』か、頑張れよ」
「あぁ?」

彼が振り返る。

「死体を踊らせる趣味はねぇ」

じゃあな。
一言残して、彼は出ていった。
家光は思わず目の前に残された皿に目を遣る。

「『仕事』帰りかよ……」

よく食うな、小さく呟いた。









「\世(ノーノ)、俺だ」
「入りなさい」

重い扉を開けると、風の流れが変わった。
優しい声が聞こえる。

「待っていたよ、ミツキ」









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