燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
ま
る
で
入
れ
子
人
形
の
よ
う
に
02
床にうず高く積まれた書類の山。
それに埋もれるように眠る白服の男を、がいつもの手順で起こそうとしている。
そもそも、仕事中のはずなのに何故寝ているのだ。
神田は呆れ返って溜め息をついた。
「リナリィィィィ!!」
「きゃあっ! 何よ兄さん!」
「あれ? リナリーがいる!? あれ、でも今、確かにリナリーは頂くとかなんとか」
「何言ってんのコムイ、空耳だよ」
「え、そ、そうなの?」
「そうでしょ。多分な」
「多分!?」
頭を抱えるリナリーを余所に、は完全にコムイで遊んでいる。
「オイ」
低い声で呼び掛ければ、三人があっさり真面目な顔で此方を振り返った。
出来るなら始めからそうしてくれという気持ちで心が満たされる。
言いたいことを全て飲み込んで舌打ちを落とせば、肩を竦めたとリナリーが大人しくソファにやってきた。
帽子を被りなおしたコムイは既に室長の顔に戻っている。
彼は傍らの紐を引いて、地図を指し示した。
「今回は、夢見る村に行ってもらう」
そう切り出したコムイに、神田は早速怪訝な目を向ける。
なに訳の分からないことを言っているのだろう。
「どういうこと? 兄さん」
素直なリナリーが首を傾げた。
は既に、コムイから目を離し、ソファに置かれていた資料を大分先まで読み進めている。
文字に対する彼の反応は異様に速い。
「リナリーだけだよぅ、ボクに優しいのは……」
コムイが、よよと涙を拭うふりをして、顔を上げる。
「フランスに、中に入った人が道端で眠るように死んでいるという村があるらしい」
「ここにも書いてあるね。眠るって、何?」
手元の資料をとんとんと叩き、が訊ねた。
コムイが肩を竦める。
「そのままの意味だよ。どうやらその村に入った人は、道端で突然眠り、死んでしまうんだって」
「皆眠っちまうなら、何で分かったんだよ。ただの噂じゃねえのか」
「いやあ、それがね。一人だけほうほうの体で逃げ出せた人がいたからなんだ」
その人物は、肉親を探して村に入ったそうだ。
しかし、転がる死体と抗えぬ眠気に恐れをなし、意識が朦朧とする中でよろめきながら村を飛び出したという。
「何が起きているのか、原因を探ってきて欲しいんだ。イノセンスなら回収、アクマなら破壊して」
そう言われ送り出された三人だったが、村の手前で足を止めた。
「生還者の話から考えると、村に入って数分の間は持ちこたえられるみたいだな」
「でも、全員眠っちゃったら、私達も危ないよね。私が『黒い靴』で先に偵察してこようか?」
とリナリーが難しい顔で話をしている横で、神田は溜め息をつく。
「それでお前が眠ったらどうやってそれを知るんだよ」
「ああ、そっかぁ……」
「三人で入ろうか。俺達は入ってすぐのところで待ってるよ。悪いけど偵察、頼むな」
「うん、任せて」
胸を張ったリナリーが、自信満々に頷いた。
速度に覚えのある彼女が偵察に出るのは、悪くない案に思えた。
もしリナリーが眠ってしまったならば、神田かが彼女を抱えて脱出すればよい話だ。
なんてことのない普通の任務。
三人は頷き合って、村に足を踏み入れた。
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