燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
ま
る
で
入
れ
子
人
形
の
よ
う
に
11
は建物を飛び移りながら、襲来するアクマ達に銃口を向ける。
火炎弾の爆発が、周囲のアクマの誘爆を招いた。
その横を、駆け抜ける。
彼らは同じ方向からやって来るようだ。
その場所には、アクマを大量発生させる何かがあるに違いない。
「ギャハハハ!」
「エクソシストだ!」
「死ね死ね死ねエエ!」
一様に殺意を叫ぶ彼らの声、は一度銃口を上げ、歯車を回した。
――回転――
「凍結弾!」
丁寧に、それでも素早く、一つ一つに照準を合わせる。
「(可哀想に)」
生けるもののエゴにより、望まぬ二度目の生を得て。
けれど雁字搦めになりながら人を殺し、麻痺する心さえ、その自由さえ奪われて。
悲しみと、終わらない苦しみの中で進化をしていく彼らを。
――囚われた魂は、いつも泣いてるんです――
呪われた左目を持つ弟弟子は、そう教えてくれた。
救われた気もしたのだ、自分の仮説は間違ってなどいないのだと。
囚われた魂達は、喚ばれた人達は、望んで人を殺すのではないのだと。
喚んだ人を恨んで殺すのではないのだと。
自分が信じた人間の心の在り方は、正しかったのだと。
「主よ」
神は、彼らに何もしてくれやしない。
乗り越えられない試練の中に、醜く卑しく美しい人間の魂を閉じ込めて、救い出しもしない。
けれど、閉じ込められた彼らが、その地獄から抜け出すことを意地汚く願ってくれるなら。
この力は、振るう意味があるのだ。
「……彼らに赦しを」
この祈りには、きっと、意味があるのだ。
氷の欠片が、きらきらと空気に舞う。
はそれを背にして、進んでいく。
引鉄を引く指を止めることはない。
爆発の炎、崩れる氷、アクマの断末魔。
全てを風景にしながら、村の奥の奥を目指す。
入り組んだ路地裏が見えた。
そして、そこから溢れるように出現するアクマ。
「(そこか!)」
小さな民家の屋根から飛び降りて、地上を走る。
目指す路地裏の隙間から、キラキラと輝く扉のような物が見える。
もしや、あれは千年伯爵側の何らかの装置ではないのか。
「霧!」
擦れ違うアクマ達を、血の霧による目眩ましで足止めする。
破壊は後だ、供給を絶たねば。
駆け込んだ薄暗い道で、不似合いに輝く扉は間もなく閉じようとしていた。
僅かな隙間に、特徴的な耳が、丸い体が、飾り付けられたシルクハットが見えた。
全身の血液が沸騰するような衝動に、「聖典」が統制を失って釘の形に変形する。
反射的に腕が上がって「福音」が狙いを定める。
二つのイノセンスが、同時に、獰猛な勢いで扉の隙間へ突っ込んだ。
「っ、くそ……!」
しかし、それらが到達した時には既に扉は固く閉ざされ、嘲笑うように目の前からかき消えた。
後に残されたのは、霧が晴れたせいで此方に向かってくるアクマ達と、競り上がる苦しさ。
は胸の辺りを握り締める。
――お兄ちゃん――
ごめんね。
頭の中に響く声へ、そんな言葉すら返せないまま、は顔を上げた。
「あれ? 伯爵サマは?」
「殺していいんだよね、コイツ」
「やろうやろう! 黒の団服、エクソシストだ!」
アクマの歓声が空気を震わせ、聴覚を歪ませる。
アクマの供給はもう絶たれた。
経験豊富な二人の二方向からの攻撃なら、あのオルゴール型のアクマもすぐに打ち壊せるだろう。
今更だ。
は腕を上げた。
漆黒の礫が、鋭さをもってアクマ達を貫く。
空気を引き裂く絶叫が聞こえる。
胸が、握り潰される。
息が、切れる。
膝をついたその地面に、幾つもの機械が落下する。
「主よ……彼らに、赦しを……」
なぜ、あなたはかれらをみすてるのですか。
なぜ、あなたはかれらをさばくのですか。
なぜ、かみさま。
かみさま。
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