燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
仔
羊
達
の
秘
め
事
05
ガゥン!!
重なって響いた銃声は、互いの背後に迫ったアクマを撃ち壊した。
二人はそのまま場所を入れ代わる。
背中から、派手な銃声。
「ホントに、何で居る訳?」
自分との修業中、一度も本部に連絡を取らなかった師、クロス・マリアン。
一応元帥の地位にある彼は、それを咎められて長い謹慎を喰らっていた。
筈なのに。
「あぁ? 『お迎え』っつったろ」
「呼んでないってば」
「鏡見てから言え、馬鹿弟子」
「っ、うるさいな」
は、唇を噛んだ。
此処は戦場。
自分は「守り」、「狩る」側。
「(……何で、来るんだよ)」
思いがけずもたらされた、強烈な安心感が憎い。
生まれる甘えに、身を委ねてしまいそうな自分が恨めしい。
覚悟は簡単に崩れていく。
「(集中しろ、集中しろ、集中しろ)」
けれど同時に、この背はどうしても失いたくないものだと、思い出すから。
弛緩と緊張の交錯。
心は惑い、大きく揺れ動く。
「(集中しろ、集中しろ、集中しろ……ッ!)」
歯車を回し、血の釘を広げ、大きく短い息を、一つついて。
は「敵」を見据えた。
「!」
「何!」
互いの銃撃で、耳が壊れそうになる空間。
クロスが笑う。
「振り返らないからな!」
「……分かってる!」
とて、振り返る気はない。
自分の背中が安全だと、知っているから。
――油断
こんな油断は、嫌いなのだけれど。
常よりも格段に気を楽にしていられる、その状況に、思わず微笑を零してしまう。
今なら。
今なら、アクマの魂を赦す事だけで、思考を埋め尽くせそうだ。
「(……主よ、彼らに赦しを)」
福音と聖典の共鳴に、断罪者の響きが重なる。
昇る魂と、後に残る器。
静まり返った通りからは、すっかり殺気が消え去っている。
「他に居るか?」
「……居ない、けど……」
殺気は無いが、視線が消えない。
絡み付くような、嘲笑うような、不吉な視線。
「誰か……居る?」
「オレと一緒に来た探索部隊だろう」
「トマ? ……でも、」
「」
名前を呼ばれ、振り返った。
ぽすん、と頭に乗せられた手。
髪の毛を掻き混ぜられる。
――どうしよう
肩に乗っていた重しが、不意に消え去った気がした。
今まで張り詰めていた気が緩み、唐突に意識が揺らぐ。
「……師、匠」
「ちょっと寝とけ」
暗くなる視界。
「よくやった」
呟きが、鼓膜を掠めた気がした。
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