燔祭の羊  
   <ハンサイノヒツジ>  






04








トマを「聖母ノ柩(マリア)」で隠し、そのドレスを弄びながら「断罪者」を構える。
向かってくるものを軽く撃ち壊し、彼方を見遣った。
町の入口から聞こえる破壊音。
聞き慣れた、「福音」の銃声。

「ちっ」

彼なら抜かりなく全て倒せるとは思うが、不安が消えないことには変わりない。

「……それにしても、」

アクマの数が、多すぎる。
これを一人のエクソシストに任せようとは。
ヴァチカンの正気を、疑ってしまう。
しかし、同時に疑うのは、千年伯爵。
餌となる人間が消えたこの町に、これだけのアクマを配備するとは。
以前から相当おかしな奴だとは思っていたが、遂に。

「(狂ったか、デブ)」

それとも、

「(……この町に、何かがあるのか?)」

そう、例えば――イノセンス。
クロスは、銃声を轟かせ、弾倉を入れ替えた。
トマとは違い、見えている筈の自分を飛び越すアクマ達を目で追う。

「(町の、入口)」

町の門か。
外壁か。
入ってすぐの家にあったのか。
ならば何故、二人が町に入って今まで、襲撃されなかったのか。
トマだけが町に来たのならまだ分かる。
胸にローズクロスを掲げた、自分が居るのに。

「(何考えてるんだ、こいつら)」

何故、今になってやっと襲ってきたのか。
町を見て、汽笛が聞こえて――

「……トマ、そこで待て」

マリアとトマを残し、クロスは駆けた。

――狙われたのは、

「(……ッ)」

きっと何処かで、伯爵が見ている。
空気に舌打ちを残しながら、クロスはただ、気配を目指した。
どれだけ、元来た道を辿っただろう。
路地から見える大通りに、漆黒の霧が立ち込めている。
「断罪者」の弾数を確かめながら、クロスは角を曲がった。
霧が晴れる。
通りを埋め尽くすアクマの群れ。
周囲を敵に囲まれ、クロスはちょうど眼前に居た黄金を見下ろした。

「……」
「……」

一瞬だけの、無言の見つめ合い。
袖口に覗く左手首からは、光を帯びた液体が絶えず浮かび上がる。
睡眠不足に、失血を重ねた顔は、常よりも青白い。
しかしそれ以外はたいした怪我もない様子に、内心安堵の息をつく。
はというと、やはり驚いたのだろう。
漆黒をほんの少しだけ瞠り、彼はこちらへ銃口を向けた。

「何してんの、師匠」

予想通りの言葉。
クロスはニヤ、と笑ってへ銃口を向けた。

「馬鹿弟子のお迎えだ。感謝しやがれ」

踏ん反り返って言えば、返されるのは苦笑。

「呼んでねぇよ」

二人は示し合わせたように、同時に引き金を引いた。






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