燔祭の羊  
   <ハンサイノヒツジ>  






03








出会うのは、レベル2のアクマばかり。
向かってきたものを撃ち壊し、は建物の陰へ転がり込んだ。

「は、ぁっ……また、かよ……」

此処のアクマは、五十前後と言われて来た筈だ。
前後というのは、前後の誤差、十なのか。
百か、二百か。
最近、この定義が揺らぎすぎている。
仕方がないのは、分かっている。
恐らく報告直後に、探索部隊が死んでいるのだ。
その後に増えた分を、こちらは把握出来ない。

「(……だけど、)」

まずい。
流石にもっと少ないと思っていた。
こんな時に限って、視界が揺れるのだから。

「(集中しろ、集中しろ、集中しろ)」

アクマの命を奪うのだから、せめての礼儀は失いたくない。
集中しろ、集中しろ、集中しろ。

――回転――

は再び通りへ駆け出した。









神を! 殺せ!
先程から、もう何度聞いた言葉だろう。

「狙いは……俺?」

神と聞いて浮かぶ存在は、イノセンス、世界の神、伯爵側の神、フォー。
けれどアクマにイノセンスは壊せないのだから、きっと違う。
フォーは此処に居ないし、残る二つは生死を超越している。
ならば、おこがましいかもしれないが、思い浮かぶのは自分。
不本意であろうとも、教団、ヴァチカン中からそう言われているのは、事実だ。

「(俺を、殺す、為に?)」

そのために、彼らは送り込まれたのか。
そのために、この倍の数の命が散ったのか。
そのために、彼らは命を奪ってきたのか。
そのために、白服の家族は――

「……っ、めん、なさ、い……」

――ごめんなさい……

は、左手首に乱雑に巻いていた包帯を解いた。
血に汚れたそれは、ぽてりと地に落ちる。
未だ塞がらない、傷。
そこへもう一度、ナイフを突き立てる。

――僕は、どうなったっていいんだ
――皆が、幸せでいてくれさえすれば

「ごめんね……ごめんなさい」

いくら謝っても、足りない。
素になり、蘇り、芽生え、失われ、今、自分が奪おうとする、全て。

「聖典」

――福音――

どうか安らかに、眠って。

「牢獄」

――火炎弾――

炎と煙の中に、煌めき霧散する命。
は小さく息をつき、再び銃口を「敵」へ向けた。









ふと感じた、二つの違和感。
一つは、ずっと消えない、不吉な視線。
絡み付くような、嘲笑うようなそれに、気付いたのはいつだったろう。
そしてもう一つは、気配。
「生きている」「自分に対する殺意を持たない」「人間」の、気配。
しかも、二つ。

「(怯えてる……?)」

どちらも酷く、不安そうで。
はアクマ達に囲まれながら、軽く目を細めた。
何処に居るのだろうか。
蜘蛛の糸のように、細く、しかし確かなその気配を辿る。

「……あっちだ」

呟きながらアクマを撃ち抜き、は再び走った。






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