燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
05
食堂から居間を通り抜け、大広間に出たラビは軽く頭を振った。
「ずいぶん情熱的だったな」
肩越しの微笑。
それを、通り過ぎる風で感じた。
ラビはハッと顔を上げる。
普段は惜しげもなく放たれる彼の存在感が、鳴りを潜めていた。
扉が開かれたままの応接間に、が滑り込むように入っていく。
その時は誰も振り返りもしなかったのに、大股で入室したラビの足音には数人の女性が振り返った。
応接間の調度品は、各種のサーベルや銃剣だった。
芸術的なオブジェとして壁に飾られている。
客人達に一切気取られず壁際に収まったは、興味深げに飾りを見回していた。
武器ばかり飾られている部屋の中に集まっているのは女性達で、男はラビと、エゴールの他にはいない。
ドレスを纏っているのは四人だ。
漆黒のドレスは伯爵夫人のペネロペ。
他に、アイボリー色のドレスを着た婦人、その娘と思しき少女は小花柄の水色のドレスを纏っている。
それと、ペネロペと同じ漆黒のドレスにヴェールを頭から被った謎の女性。
細身の体には似つかわしくない、ジャラジャラと重そうな音を立てるブレスレットをつけている、このヴェールの女性が霊媒師スーザン・エレジーだろう。
残りの女性陣の服装はまちまちだ。
都会で見かけるような大量生産のスカート姿の者もいれば、肘に当て布をつけた服装の女性もいる。
身分問わず、同好の誼で集まった者達ということなのだろう。
「アマリエ、今夜はあなたのためにエレジー様をお招きしたのよ」
ペネロペが優しく声を掛けた相手は、蒼白な顔をしている女性だ。
エゴールと同年代に見えるアマリエは、チェック柄のスカートを握り締めた。
「さあ、こちらに座って。エレジー様、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
一人がけのソファに深く座った霊媒師。
その正面のソファにおっかなびっくりといった調子でアマリエが座り、アマリエの肩を支えるようにペネロペが腰掛ける。
ヴェールの向こう側の薄い唇が、そっと開かれた。
「……アマリエさん……」
「は、はい」
「……今から、あなたの弟君を、わたくしに憑依させます。少しお時間を頂戴いたします。皆様はどうぞ、楽にしていらして……」
女性達がざわめくなか、霊媒師はブレスレットを手首から外し、東洋の数珠のようにジャラジャラと擦りながら不明瞭な呪文を唱え始めた。
の隣に並んで立ったラビは、意外に思って腕を組む。
こういった交霊会と呼ばれるものでは、参加者と対話をする中で相手の悩みなどを言い当てるスタイルがとられることが多い。
この霊媒師は、前置きなしでいきなり儀式を始めた。
謎の呪文を唱える声は、大きくなったり小さくなったり、抑揚をつけて部屋に漂う。
女性達のひそひそ声のざわめきの隙を縫うように、の声はラビの耳に届いた。
「さっきお前があれだけ揺さぶってくれたから、伯爵のことはだいぶ理解できたと思う。正直な話も聞けたし。ありがとな」
「いや、違う、……あんな聞き方する気はなかったんさ」
領地を預かる貴族たるもの、領民を守るべきだ――ラビはそんな道徳について語りたかった訳ではない。
ただ、冷静に考える時間があったからこそ、彼が幽霊騒動を放置していたことに関して深く勘ぐってしまった。
よほどの事情があるものだと、勝手に想像していた。
「家の名誉のため、娘の良縁のため」という回答は、ラビの想像の中には無かったものだ。
待遇目当てでやってきた屋敷だ。
けれど、今日ここに来るまでの一日半を思ったら、あの滅びたフルリス村を思ったら、どうしようもない徒労感に襲われてガックリと脱力してしまったのだ。
人間は、愚かだ。
滅びた村なんて、腐るほど見てきたのに。
どうして今日ばかりこうも引っかかるのか。
自分の気持ちを回想していると、心得たようにが頷く。
変わらない微笑に、ささくれだった気持ちが急速に落ち着いていくのを感じた。
「話切り上げちまったから、一番聞かなきゃいけないこと、聞けなかったな」
「イスラ・フィーネのことですね」
的確に口を挟んだのはエゴールだ。
事前の資料では、オリバーはイスラについて「彼女はいつの間にか大広間から姿を消していて、翌朝書斎で遺体となって発見された」と証言している。
ずいぶんと粗い証言なので、ラビはその背景も聞き出すつもりでいたのだ。
けれどこれにはが首を振る。
「彼に話せることは、あれで全部だ。……あの人は自分の家族のことしか考えてないよ。子供達が亡くなってからは、他のことに目が向かなかったんだろう。今更、イスラのことは覚えてないと思う」
「その理屈、良いんだか悪いんだか、わっかんねーわ」
「家族に対して愛情深い人なんだろ。人間らしくて、俺は嫌いじゃない」
「……は人間が好きだもんな」
皮肉まじりに返すと、は穏やかに笑った。
「信じる価値があるだろ」
静かな夜を引き裂くような甲高い悲鳴が聞こえて、ラビ達は慌てて座の中心に目を向ける。
脱力して天を仰いだ霊媒師の手から、ブレスレットが滑り落ちた。
その派手な音を最後に、部屋の中からは完全に音が消えてしまった。
緊張が高まって、誰も動くことが出来ない。
呼吸も憚られる沈黙の中で、が軽やかに口を開く。
「エレジーさんに呼びかけてみては?」
ペネロペがギョッとしたようにを振り返り、そしてアマリエの肩をそっと促した。
大袈裟なくらいに体を震わせたアマリエは、ペネロペの顔色を窺うように彼女を見てから震える声で呼びかける。
「あの……?」
頭痛を堪えるのに似た仕草で頭を押さえながら、霊媒師はむくりと体を起こした。
「――アマリエ……姉ちゃん、何でここに?」
女性陣がどよめく。
「え、……ウィリアム? 本当にっ……!?」
「ここ、どこ……? オレ、いつの間にお化け屋敷から出たの?」
アマリエが、ペネロペの手を振り払う。
「ここはベリル伯爵のお屋敷よ! やだ、ウィリアム、アンタ、何で……あんなとこ行くなって言ったでしょ! 馬鹿ぁ!」
昂る感情のまま、声が上擦って、叫んだアマリエはソファから崩れ落ちて、霊媒師の足元に縋って泣き始めた。
盛り上がる女性達。
エゴールは興味深げに手帳を開いてペンを走らせているが、ラビは気持ちが冷めていくのを感じた。
「(う、うっそくせー!)」
今日は本当に疲れている。
話の内容はともかく、夕食は美味だったし、遠慮なく腹一杯に食べたばかりだ。
風呂にだってゆっくり浸かった後なのだ。
こんな茶番に付き合うくらいなら寝てしまいたい。
欠伸を噛み殺しながら、ふかふかのベッド……ふかふかのベッド……と脳内で唱えていると、不意に隣の金色が傾いだ。
瞬時に目が覚めた。
声をかけるより前に咄嗟に手を伸ばすが、彼はただ部屋の入り口を覗きこんだだけだった。
彼を支えようと中途半端に差し出した手を見て、の方が逆に不思議そうな顔をしている。
「なに」
「こ、こっちのセリフさ」
気まずくなったのはラビだ。
「ちょっと上に行ってくる」
「は? 何で」
「ティアラが」
彼の視線を追うと、部屋の入り口から離れていく令嬢の後ろ姿があった。
「話を聞いてくる。……この屋敷にアクマの気配は無いし、こっちもキリのいいところで引き上げていいよ」
後は任せた、とエゴールの肩を叩いて、はするりと部屋を抜け出して紫のドレスを追う。
呆然とその背を見送るのはラビとエゴールだけで、女性陣は泣いたり騒めいたりに忙しく、彼が部屋を出たことにも気付いていない様子だった。
アクマの気配は無い――ああも自然に断言されてしまうと、緊張の糸なんかあっという間に切れてしまう。
ああもうっ、とラビが頭を掻くと、エゴールが気遣わしげにこちらを見上げた。
「ラビ様もお疲れですよね。お休みになるのであれば、記録はお任せください」
「や、いいよ、オレも付き合うさ」
記録と名のつくものを他人に任せるようでは、流石に次期ブックマンとしての名が廃る。
緊張の糸はプッツリと途切れたが、眠い頭はすっかり覚醒してしまった。
仕方がないから、最後まで付き合ってやろう。
「まったく……こっちは心配したってのに、全然伝わりゃしねェんだから」
任務での疲労は二人とも同じだ。
けれど、には武器の事情もある。
汽車に乗る前に倒れてからまだ日も跨いでいない。
また貧血でも起こしたかと肝が冷えた。
それはエゴールも同じだったようで、生真面目な探索部隊員が握り拳で隠した口元は、小さく笑っていた。
***
エゴールが手帳のページを遡る。
「どう?」
「発言の内容は、調査内容と一致しています」
霊媒師は、本当に「ウィリアム」を憑依させたのだろうか。
エゴールの調査によれば、そもそも「ウィリアム」というのは直近の幽霊屋敷騒動で命を落としたと思われる少年の名だ。
姉であるアマリエには、調査の段階で既に証言をとっているらしい。
アマリエの弟ウィリアムは、肝試しと称して二ヶ月前に友人と五人でローリー邸を訪れた。
屋敷には鉄製の門があるというが、そこを潜った途端に五人は執事、シェフ、家庭教師、ベリル伯爵、そして雨宿りの客「イスラ」へとキャスティングされたのだそうだ。
使用人の役を当てられた三人は、入室した記憶もないのに屋敷内に入っており、伯爵の役を当てられた少年はいつの間にか馬車に乗ってローリー邸の敷地内に入るところだった。
自分が死んだことを知らされた「ウィリアム」は、一頻りの混乱の後に、霊媒師の口を借りて言った。
「オレは、……気付いたら、ヒューゴに出迎えられてたんだ」
「ヒューゴというのは、執事役になった少年の名前です」
ラビが疑問に思う箇所で、適切にエゴールが言い添える。
少年達は、事件当夜のそれぞれの人物の行動をなぞり、発言をし、パーティーを楽しんだという。
もっとも、楽しむ側にいたのは伯爵役と「イスラ」役のウィリアムだけだ。
使用人役の三人は目まぐるしく働いていた。
五人とも自由な身動きは取れず、しかし、口が勝手に台詞を喋る以外は互いに言葉を交わすこともできた。
「身体が勝手に操られてるみたいで、途中までは面白かったんだ……でも、子供達が死んだり、死体が見つかったりして、すごく怖くて……屋敷の外からはずぶ濡れのドクターが入ってきたりしたけど、オレ達は逃げられなかった……」
生きて帰った四人も同じことを証言している。
彼らはそのまま夜明けまで屋敷に留まらされていたが、四人は雨が上がった夜明けの五時頃にふと気が付くとローリー邸の玄関の外に立っていたのだという。
「窓の外が明るくなって、……気付いたら、子供達も、ドクターも、お客さんも、ヒューゴ達も誰もいなくなってて……でも、オレは、階段の方に行って、それで、……そうだ、そうしたら……」
「ウィリアム」が腹の辺りを手で探り、涙を零してしゃくり上げる。
後日ローリー邸の書斎から、ウィリアムの衣服が発見された。
衣服はちょうど腹の辺りで引き裂かれていたというから、砲弾での攻撃で殺されたわけではない。
十中八九アクマの仕業だが、こうなるとアクマはレベル2だろうか。
「姉ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……姉ちゃんは、あんなとこ行くなって言ったのに」
アマリエは霊媒師を抱き締め、弟を宥めるように必死に頭を撫でた。
「馬鹿! アンタは本当に馬鹿よ……ウィリアム、ああ、ウィリー……、お願い、教えて、誰がアンタを殺したの!?」
「分かんないんだ、姉ちゃん、オレは、……何で、死んだの……?」
そうぽつりと呟いた霊媒師の身体が、唐突に脱力した。
驚いたアマリエは弟の名を叫びながらも、突然委ねられた体重を受け止め切れず相手を抱えたまま床に倒れ込んでしまう。
ペネロペが、下敷きになったアマリエを慌てて救出する。
ラビもエゴールと顔を見合わせて騒ぎの渦中に駆けつけた。
霊媒師がいかに細身の女であろうと、意識のない体をソファに横たえるのは女性だけでは無理だ。
二人で息を合わせて霊媒師をソファに寝かせると、ヴェールの下の虚ろな目と目が合った。
「大丈夫さ? えーっと、……エレジーさん?」
「……ええ」
霊媒師は、泣きじゃくるアマリエをじっと見つめる。
この霊媒師は最初から、ラビに背負われていた時のよりも気怠そうな喋り方をしているが、今はそれに輪をかけて大儀そうで、身動ぎさえしない。
「……わたくし、きちんと呼べましたのね……」
アマリエが何度も何度も頷いて答える。
霊媒師はそこでようやく微笑んだ。
「そう……それは、よかった……」
「あっ、おいっ!」
微笑みながら、そのまま眠るように気を失ってしまう。
ラビは慌てて彼女の肩を揺するが、反応はない。
ペネロペが執事を呼んだ。
「奥様、お呼びですか?」
素早く駆けつけたブレイクは、ソファでぐったりとする霊媒師を見ると僅かに驚いた表情を浮かべた。
「お疲れのご様子なの、客間へお連れして差し上げて……今夜はお帰りになるご予定だったわね?」
「そのように伺っております」
「それではメイドを誰か……そうね、ドロシーがいいわ。彼女を傍につけて。もし朝までにお帰りになるようだったら、ご希望に応えるように。いいわね」
「畏まりました」
ブレイクは下僕を呼びつけて、三人がかりで霊媒師を運んでいった。
彼女が運ばれていくや否や、女性達の興奮は解き放たれたようだった。
「噂以上の方でしたわ! ねぇ?」
「私、圧倒されてしまいました……!」
「お母様、今度我が家にも来ていただきましょうよ!」
霊媒師を寝かせるために床に膝をついていたエゴールが、すっくと立ち上がりラビの半歩後ろに立った。
「確かに、僕も少し気圧されました」
密やかな声で、ラビだけに聞こえるように打ち明ける。
「そうか? ぜんっぜんそんな風に見えなかったけど」
いたって冷静にメモを取っているように見えていたものだから、首だけ振り返ったラビは素直に驚きを口にした。
エゴールは照れ隠しのようにはにかんだ。
「僕が凡人だからかと思いますが……どことなく、様と似た雰囲気を感じて」
「あー……ああ、それは分かる気もするさ」
最初こそ霊媒師の挙動を嘘くさいと感じたものの、最終的にラビはスーザン・エレジーの能力を半分ほど信じかけていた。
エゴールのように調査をすれば、直近の事件の情報も、六年前の事件の情報も、どちらも入手することができるだろう。
だから、発言内容は眉唾ものだ。
けれど最後、倒れ込んだ彼女の姿には真実味があった。
何せ今日のラビは、既にひとり、目の前で倒れた人間を背負って運んだばかりなのだ。
その姿が演技なのか、そうでないのかくらいは簡単に分かる。
あれが演技でないのなら、もしかするとその前の「ウィリアム」も本物だったかもしれない。
そんな、ラビから見て半分ほど本物らしい霊媒師は、終始この部屋の空気を自在に操っていた。
人々の呼吸を、視線を、見事に操ってみせた。
その様子は確かに・と似ている。
「……会いたい……」
ペネロペに肩を支えられていたアマリエは、しゃくり上げながら引き攣るように息を吸い込んだ。
「……会いたいっ! あんな、霊媒師なんかじゃ、なくって……ウィリーに会いたい!」
女性陣の騒めきがぴたりと止む。
「ごめんなさい、ペネロペ様……エレジー様を呼んでほしいって、お願いしたのはわたしなのに……!」
ラビは目を瞠った。
この会の主体は、ペネロペではなかったのだ。
たしかに、ただの町娘にしか見えないアマリエでは、売れっ子の霊媒師を呼びつける費用も準備できないし、その伝手も持たないだろう。
「でもダメなの、こんな気持ちになるなんて、思ってもみなかった……あれはウィリーじゃないっ! あの子、わたしの身長を抜かしたんです! わたしが届かない棚に、酒瓶を隠して笑ってた子よ……あんな、あんな姿じゃないの、ウィリー……っ、」
会いたいっ……!!
振り絞るような絶叫に、ラビは口を開きかけた。
が、閉じる。
「(がこっち残る方が良かったんじゃねェかな?)」
こういう愁嘆場を収めるのはの方が得意だ。
ただ、あの状況を記憶するのはラビの方が得意だ。
どうあれラビはブックマンの後継者であると同時に、黒の教団のエクソシストでもある。
死者に会いたいなどと宣う人間には、きちんと釘を刺しておかねばならない。
どうしたものかと再び口を開こうとすると、その前に漆黒のドレスが動いた。
「そうね、……あれは、あなたのウィリアムではなかったわ」
「わたしっ、……ペネロペ様ぁぁっ……!」
「分かります。わたくしだって、息子達に会いたい。でも分かったでしょう、アマリエ?」
ペネロペは、子供のように泣きじゃくるアマリエを正面から抱き締める。
「『死んだウィリアムに会わせてあげる』なんて、どんな有名な霊媒師の方でも、本当にはできないのよ」
***
玄関で客人を見送るペネロペの背に、ラビは声を掛けた。
「意外さ、あんなこと言うなんて」
伯爵夫人がおっとりと微笑みながら振り返る。
「アンタ、何のために交霊会なんか開いてんの?」
亡くした息子達を思い、交霊会に入れ込む伯爵夫人。
そのように聞いていたが、どうやら実情は印象と随分異なっていたらしい。
「いっつもああして、諦めさせるためにやってんのか?」
「いけませんこと?」
「いーや、オレらの立場からすると、助かるけど」
上品に微笑んで鷹揚に頷いたペネロペは、ゆったりとラビの横を通り過ぎ、大広間の一際豪奢な一人掛けの椅子に腰を下ろす。
細い手が向かいの椅子を示すので、ラビは遠慮なくどっかりと腰掛けた。
一度座ってしまうと全身の疲れをどっと感じる。
「わたくしだって、息子達を呼び戻せたらと……考えたことがないと申しますと嘘になります。主人から教団やアクマの話を聞いておりました。ですから、一度はね、考えましたとも」
「やっぱり」
「でも、やめましたの。……だって、一人で二人を喚ぶことは出来ないのでしょう?」
ラビは目をパチパチと瞬かせる。
「えっ、そんな理由?」
気取らない笑顔でクスクスと笑う姿は、この屋敷の人間の中で最も余裕があるように思えた。
「そんな、だなんて。重要なことですわ。ヘンリーも、フィナスも、わたくしの可愛い可愛い子供達。……ひとりを選ぶことなんて、出来ません。それに、息子達に人殺しなんてさせたくありませんわ。ですから……わたくしと同じように悲しむ人がいれば、前を向く助けになって差し上げたいと思うのよ」
吹き抜けから上階を見上げ、自分に確かめるように頷く。
「それに、わたくし達にはティアラがおりますからね。あの子を一人前の女伯爵にすることが、生き甲斐ですの」
「……そっか」
きちんと背筋を伸ばしたペネロペは、灰色の瞳でラビとエゴールをじっと見据えた。
「ウィリアムを殺したのは、アクマの仕業だとお思いになります?」
「ペネロペさんはどっちの方が納得できるんさ? 原因がアクマか、幽霊か」
「わたくしは、アクマであってほしいと思います。……そうであれば、あなた方が解決してくださいますものね?」
確信めいた言葉に、ラビはエゴールと顔を見合わせて笑った。
「責任重大だな」
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