燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
07.そして秋を待つ
神田の横に、半分に割れたスイカが積み上げられていく。
「……おい」
スイカは綺麗に中をくり抜かれ、中央に種だけを寄せていた。
ラビが向こうで苦笑している。
「おい」
二度目の呼び掛けに、神田とラビの真ん中に陣取っていたが顔を上げる。
半身のスイカを左手に抱え、右手は大振りのスプーンを赤い実に突き立てたところだった。
やや不機嫌な表情で、彼は神田を見る。
「何」
「どんだけ食うつもりだ」
「だって他に食えるもんねーし」
積み上げられた皮は十六個、つまり、まるまる八つ分。
今が手にしているのは、九玉目の半球だ。
「オレらのもちょっと残しといてくれると嬉しいさ」
「お好み焼きと焼きそばあげたじゃん」
そう言い捨てて、は再び中を掬った。
コムイが気まぐれに発案したイベント、日本風夏祭りは、団員達のストレス発散に大いに役立っているようだ。
科学班と探索部隊はいつものようにプライドを賭けて戦っているし、リナリーを始めとした数少ない女性陣は浴衣姿ではしゃいでいる。
スイカの切れ端を食べていたラビが、種を窓の外へ吹き飛ばした。
「ユウは種、どこやってんさ? は皮の中だし……」
神田は横目でラビを睨む。
「一緒に飲み込んじゃ悪いのかよ。つーか何さりげに名前」
「うっわ」
が少し身を引いて神田を見た。
「種食うとへそから芽が出るって、知らねーの?」
「なっ……!」
初耳だ。
その光景を思わず想像してしまい、神田はごくりと唾を飲んだ。
口の中にあった種も一緒に飲み込んでしまう。
「……マジかよ……」
「嘘に決まってんじゃん」
けろりと言ってのけたは、皮を脇へ置いて、九玉目の残りの半球を手に取った。
神田は、自分のこめかみが痙攣したのをはっきりと感じた。
「テメェ!」
神田の怒鳴り声などどこ吹く風、はもくもくとスイカを掬う。
自分の切れ端を食べ終えたラビが立ち上がった。
「オレちょっと焼鳥食べてくるさ。あ、、タコ焼きなら肉入ってないけど?」
が顔を上げる。
「タコ……焼き……?」
きっと聞いたことが無いのだろう、珍しく疑問符だらけになっている。
ラビが笑った。
「ついでに持ってくるさ。ユウはなんか要る?」
「……ざる蕎麦」
「流し素麺しかねぇさ、却下な」
足取りも軽く、ラビが歩いていく。
が不意に呟いた。
「酒飲みてぇ……」
「まだ十六じゃねーか」
「英国は十六で成人だから良いんだよ」
「……う、嘘、だな」
「ちっ、ばれたか」
悔しそうに、けれど楽しそうに、彼は笑う。
どこかで、花火が上がる音がした。
窓から入るその光に、彼が照らし出される。
輝かしい、笑顔。
「……おい、それ十個目だろ」
「まだまだいけるぜ」
(主人公17歳)
090828