燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
62.幻想
「新居に移ってから、、何か変わったよね」
ジョニーの言葉に、リーバーとロブは顔を見合わせた。
三人はまた一つ階段を上る。
ロブが首を傾げた。
「どこらへんが?」
「何て言うかさぁ……近寄り難くなったって言うか……ううん、なんか……」
ジョニーの歯切れの悪い言葉を聞き、リーバーは視線を外した。
が医務室を出たのは、全員が新居に来た日から数えて十日程経った昨日のこと。
早速科学班に顔を出した彼を思い出す。
「前はさ、ホラ、神様だ何だって言っても、オレらの傍に居たっていうか……」
「あぁ……」
ロブが顎に手を当てる。
「言われてみれば……昨日わたしも気になってちょくちょく見てたなぁ」
「でしょ? 笑ってはいるんだけど……」
「そうそう、合間の表情に遊びが無くて」
「うんうん」
確かに、昨日のはやたらと話しかけにくかった。
だからこそ様子見を兼ねて、朝食に誘いに行こうとしているのだ。
「まぁ……なんだ、まだ本調子じゃ無かったんだろ」
ジョニーとロブが頷いた。
「あ、そっかぁ」
「そういえば病み上がりですもんねぇ」
リーバーは扉の前に立った。
彼が起きていることを願いつつ、少し強めに扉を叩く。
「ー?」
バン! と扉が開いた。
思わず三人はそのままの姿勢で固まる。
新しい団服を着たが、息を切らせてそこに立っていた。
茫然と目を見開いてリーバーを見つめる。
「お、おはよう……」
リーバーはなんとか声を絞り出した。
はまるで何も聞こえていないかのように、リーバーを見つめ続ける。
瞳から光が消えた。
呼吸が落ち着きを取り戻すのに合わせて、ロブやジョニーを透かして視線が惑う。
やがて、彼は静かに俯いた。
「……?」
おずおずと手を伸ばすジョニー。
が小さく笑った。
「……そう、か……」
三人は顔を見合わせる。
リーバーは彼の肩に手を置いた。
「具合悪いのか?」
深呼吸の後、空気が笑った。
が顔を上げる。
「……ううん、……大丈夫。どうしたの?」
「あぁ、朝食一緒にどうかと思ってな」
「行く行く、ちょっと待ってて」
いつもの笑顔を残して扉の中に消えた彼の背中を、リーバーは目で追った。
「寝ぼけてたのかな」
「昨日のもオレらの思い違いか」
「良かったぁ……」
ジョニーが安堵の溜め息をつく。
扉が開いた。
引き込まれる笑顔。
「お待たせ」
を迎えて、四人は他愛もない会話をしながら食堂へ向かった。
途中、曲がり角の度にが悲しそうに微笑ったのを、リーバーだけが見ていた。
(本編78話直前)
160416