燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
48.絆
ティエドールはカフェオレをすすった。
「ってさ」
「はい?」
「何であいつの弟子になっちゃったの?」
「何ででしょうねぇ……」
目の前に座るは、アールグレイを傾ける。
少し離れた所では、食堂中の視線を集めながら、コムイとクロスが激しく口論していた。
「成り行きですかね」
あっさりと言って、彼は微笑む。
ティエドールはカップをくるりと回した。
「大変でしょ、アレの世話は」
「まぁでも、慣れましたし」
またも教団を抜け出し、三日振りに帰ってきたクロス。
いつもはがクロスを庇うのでコムイも咎められずにいる。
ところが今日は、何故かがコムイに味方したのだ。
そんなわけで、説教するコムイと弁解するクロスという、珍しい見世物が出来上がった。
「私の所に来た方が、毎日ラクだよ?」
「あはは!」
うんうん、と頷きながら、彼は笑った。
「でも、あの人が居たから、ここまで生きてこられたんで」
「おい!」
「ちょっと元帥! 話はまだ終わってませんよ!」
クロスが二人のいるテーブルに逃げてきた。
鬼気迫る表情での肩を掴み、自分のほうへ向かせている。
「何を暢気に茶なんか飲んでやがる」
「やだな師匠、ティータイムだよ」
「こんな時だけ英国人面しやがって!」
「国籍は簡単には変えられないんでしょ?」
すっとぼけて紅茶を飲み干したが、駆けてくるコムイをちらりと見た。
「師匠はたまには怒られた方がいいよ」
「弟子なんだから師に味方しろ」
「ちぇっ」
「……! その人、そのまま、捕まえといて……!」
息も絶え絶えにの脇に来たコムイ。
喘ぐ肩を軽やかに叩いて、が笑う。
いつの間にかクロスが自分の脇に来ていて、ティエドールはおや、と金色から目を離した。
「何してんのクロス」
「何だっていいだろ。つーかテメェまた――」
「手間かけてごめん、コムイ。なんか師匠は俺に怒られたいみたい」
クロスの言葉が不自然に途切れる。
立ち上がったの笑顔が、爽やかに輝いていた。
クロスが一歩引いた。
「……待て、……」
「大丈夫。二の句も継げないように、徹底的にシメておくから」
「待て! 話せば分かる!」
「わっかんないなぁ、紅茶美味しかったなぁ」
「関係ないだろそれは!」
「焼き林檎食べたいなぁ」
「知るか!!」
オルヴォワール、元帥
現地人も驚く流暢な発音で、は優雅に一礼した。
かと思うと、逃げ出したクロスを追って猛然と駆け出した。
全く、予測不可能な師弟である。
「(あの人が居たから生きてこられた、かぁ……)」
やっぱり、彼を自分のもとに引き抜くことは出来そうにない。
ティエドールはぼんやりとそんなことを考えながら、コップの中身を飲み干した。
(主人公15歳)
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