燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
23.快勝
軽いノック。
こちらの返事を待たず、不思議そうな顔でが扉を開けた。
クラウドの隣にふんぞり返るクロスが、彼を手招く。
「やっと来たか」
「俺にも都合ってもんがあるんだけど。クラウド元帥、いつもごめんなさい」
このろくでなしには勿体ない弟子だと、クラウドはいつものように心の中で溜め息をついた。
何故、彼が自分の弟子にならなかったのか。
「気にするな。会えて嬉しい、」
軽く微笑むと、安堵の笑みが返ってくる。
肩の上のラウ・シーミンへ手を伸ばした彼を、クロスがぐいと引っ張った。
クラウドとは反対隣に座らされ、が溜め息を零す。
「もう、何の用?」
「酌」
「……はいはい」
瓶の口からは一滴も垂らす事なく、は要求に応えてグラスを充たす。
こちらにも向けられる瓶。
「飲みますか?」
「いや、私はもういい」
断るクラウドの傍らで、クロスはそれを一息に呷った。
が怪訝な顔で師を見上げる。
「師匠、……機嫌悪い?」
「何でそう思う?」
「そんな飲み方、普通しないから」
窺うような目つきの。
彼をじっと見つめるクロス。
クラウドが止める前に、金色へ拳骨が落とされた。
「い……っ!」
「全くお前は……」
クラウドは隣で呆れ返った。
もう少しやり方というものがあるだろうに。
クロスは構わずに弟子の頬を片手で挟む。
「あれほど言ったのに……ソカロと話してたらしいな? 」
「ふぁっへほあろ」
言い訳が理解できなかったか、クロスが渋々手を離した。
「だってそんなの、向こうが話し掛けて来たのに……」
「だっても何もねぇ。オレが駄目だっつったら駄目だ」
頬を膨らせて拗ねてしまったを見兼ね、クラウドは口を挟んだ。
「そんなに邪険にしてやらなくてもいいだろう。あいつだってに会うのを心待ちにしているのに」
「それが問題なんじゃねーか」
クロスが急に真面目くさった顔でこちらを向く。
「アイツに一時間でも預けてみろ? 次会う時には死体だ」
元死刑囚という、とても普通ではない過去を持つ同僚の趣味を、思い返す。
「……まぁ分からんでも無いが……」
「だろう?」
勝ち誇ったように言うクロス。
クラウドはもう一度溜め息をついて立ち上がった。
纏わりつくクロスの手を叩き落とし、ソファの後ろから金糸を撫でる。
の耳元で、しかし、クロスにも確実に聞こえるように囁いた。
「コイツに嫌気がさしたら、いつでも私のところに来なさい」
「クラウド! お前もか!」
「元帥、今すぐにでも!」
「ちょっと待て!!」
その叫びに、胸がスッとする。
クラウドは意気揚々とクロスの部屋を後にした。
(主人公15歳)
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