燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
22.選択
「よぉ、」
「ソカロ、元帥?」
いつもクロスが座っている席を占領して、早一時間。
随分待ったが、予想通り、大量の食糧を抱えたがやってきた。
目を丸くしてソカロを見ている。
「まぁ取り敢えず、座れ」
「はぁ……」
促されるままに座ったは、持っていた食事をテーブルに並べた。
見た目に似合わず、軽く十人前はあろうかという食事。
流石のソカロも、仮面の内で表情を引き攣らせる。
最初の驚きはどこへやら、は早速スープを掬い、もくもくと食べ始めた。
「師匠が座った席は避けて座るのに……どうしたんですか?」
半分ほど片付いた頃、スプーンとフォークを運ぶ合間に、彼はソカロを見上げた。
ソカロは自分の前にまで及んだ皿に乗っているレタスを摘んだ。
「お前が何処にも居ねぇから、わざわざ此処で待ってたんだろうが」
「科学班に居ましたけど」
「あんなとこ誰が探しに行くか……つーか肉も食べろ、兎の餌じゃねぇんだぞ」
大量のサラダを次から次へと口に詰める。
横に皿を重ね、彼は唇の端をナプキンで少し拭う。
「肉、駄目なんです」
「あぁ? 女々しいな……男だろ、一応」
「一応って何ですか? 元帥」
また一枚、皿を重ねて、は心底嫌そうにソカロを見た。
「で、御用件は?」
「それだ。オレの暇つぶしに付き」
「お断りします」
言い終わる前にキッパリ断られ、ソカロはそのまま固まる。
はというと、何食わぬ顔でパスタを食べ始めた。
「……断るの早過ぎだろ」
「だって……」
口の中の物を飲み込んで、続ける。
「元帥の暇つぶしって、殺し合いじゃないですか」
「はっ! クロスの修業よりマシだろうよ」
はフォークをくわえて、考えるように宙を睨んだ。
やがて溜め息と共に首を横に振る。
「どっちもどっち」
弟子の中にさえ、物怖じせずにこんな口をきける者は居ない。
ソカロは仮面の裏で唇を舐める。
「……やっぱクロスには勿体ねぇ……」
「会うたび言わないで下さいよ……今は師匠が居ないから、まだいいですけど」
はっはっは! とソカロは気分よく笑った。
「今度から気をつけてやるよ」
「お願いします」
「で、さっさとソレ食って、オレの暇つぶしに付き合え」
「……ちょっと。人の話聞いてました?」
(主人公15歳)
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