燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
15.コトヅテ
病室を抜け出して、は一人、屋上に上っていた。
柵に凭れて息をつく。
「あーあ……」
またユウに助けられたな、と今日の任務を振り返る。
気付いた時には医務室のベッドの上だなんて、最近何回続いたことだろう。
思い通りにならない身体に、いい加減嫌気がさす。
再び俯こうとした目の端に、何かが煌めいた。
「……?」
顔を上げる。
向こうから光の残像を残して飛んでくる金色。
「え……ティム?」
手を伸ばせば、ゴーレムはパシッと音を立ててその中に収まった。
指を軽く噛んだかと思うとふわ、と飛び上がり、くるくると目の前を回る。
「師匠、帰って来てるのか?」
ティムキャンピーは柵に落ち着いて、首を横に振るように体を動かした。
大きく口を開けて、映像を呼び出す。
画面いっぱいの、赤。
『俺だ、インドに居る』
懐かしい声が流れてくる。
『アレンを教団に送ることにした。アイツが迷わなければ二週間で着くだろう、後を頼む』
「(ってことは一ヶ月後、かな)」
弟弟子のことを懐かしく思い出す。
映像は、まだ続いた。
『ところで、変わりは無いか? 聖典の副作用に変化があるなら、必ずティムに伝えろ。分かったな』
映像が切れて、ティムキャンピーが舞い上がった。
はゴーレムを手に収め、包むように撫でる。
自然と笑みが零れた。
「放っといたくせに」
『了解、引き受けました。アレンには絶対に、道程を教えてあげて下さい』
クロスは手元のワイングラスをゆっくり回した。
『こっちから伝えることは特に無いです。師匠こそ、また酒ばっか飲んでんだろ? もう歳なんだからほどほどにしときなよ』
一体どこで録ったのだろう。
自然の光を光源に、映像の中でが笑う。
『任務の成功、っていうか貴方が任務を実行することを祈ってます。お気をつけて』
六回目の映像が切れた。
ティムキャンピーに命じてもう一度同じ映像を流させる。
『了解、――』
ワイングラスに口を付け、飲み干して溜め息をつく。
ボトルを手に取り、しかしグラスと共にテーブルに戻した。
立ち上がって、窓を見る。
ティムキャンピーが八回目の映像を流し始めた。
映し出されたのは、二年前とは違う静かな微笑み。
クロスでさえ、五回見なければ気付かなかったその違いは、落ち着いたと言うべきか、それとも。
「……進行してるのか……」
九回目の映像を遮って、クロスは笑った。
「ったく、変わらねぇな」
――強がりやがって
(主人公18歳)
091008