燔祭の羊  
   <ハンサイノヒツジ>  









40,000hit-2/Another story「泡沫を識る者」









歳は、たった二つ違うだけなのに。
兄達はたまにとても、遠い。
それは自分がどうしようもない甘ったれだから感じることなのかもしれない。
けれど流石にそれだけの問題でもないような気がして。
は大聖堂の入り口に身を潜めて、動けないでいた。

「……この戦争は、終わるのか」
「その為に頑張ってんだろ?」
「『ジュニア』」

先日、探索部隊が、同時に何隊も襲われたと聞いた。
聖堂に並べられた棺には、やっと帰ってきた遺品だけが納められている。
ひとつひとつを丁寧に弔ったが、十字架の前で鋭い声を上げた。
跪く彼の後ろに立った朱髪の青年は、重心だけ移動して、事も無げに応えた。

「その先を言わせるのは卑怯さね、

兄の歯軋りが、此処まで聞こえた気がして。
は思わず、壁に着いた手に力を込めた。

「聞いてどうするんさ。聞いて、どんな顔して皆のところに戻るんだよ?」
「だって俺には、言えない」

震えそうで震えない声が、呟く。

「仮に思ってたって、もう二度と……嘘でも。言わないって、決めたんだ」
「オレならいいんか」

苦笑を含んだラビの声。
が顔を上げる。
僅かにラビを振り返り、笑った。

「……お前こそ、何て顔してんだよ」

は身を翻した。
見ていたなんて、気付かれたくはない。
静かに遠ざかりながら、俯いて唇を噛む。
何で、どうして。

「(どうしてあんなこと言うの、ラビ)」

の苦しみを、痛みを、分からない彼では無いだろうに。
折れそうな兄の気持ちを、察することも出来ない彼では無い筈なのに。
それがどうして。
あんな受け答えでは。

「(肯定したのと、同じことだわ)」

兄が、望まれるまま強く在るために、求めたのはきっと、あんな言葉ではないのに。
ラビなら、卓見した孤独な兄の理解者になってくれると、思っていたのに。
は俯いて、顔を隠した。









は、立ち上がった。
先例と照らし合わせて、現状を把握したいと。
詮なきことと知っていながら、その答えを求めたのは自分だ。
苦く笑うと、先を促される。

「何さ?」
「いや……うん、今そこに、が居たかも」

愛情深い妹には、変に誤解させたかもしれない。
ラビが肩を竦めて眉を上げる。

「ごめん、ラビ」
「……っあー、タイミング悪すぎさー」

途端に頭を抱えて唸った彼を見て、は笑った。

「あ、今、いい気味とか思ってただろ」
「別に、そんなこと思ってねぇよ」
「いいや、絶対そーゆー顔してた! 何でオレだけいっつも悪い虫扱いなんさ……!」
「ラビだけじゃない、全員悪い虫だ」
「このシスコン!」

わあわあと言い合いながら、二人は聖堂の出口へ向かう。
求められる姿の裏で、見据える道を見失ったとき。
ぶれそうな軸を正す指針の一つとして、彼を利用しておきながら。
ラビにはこうして、笑っていて欲しいと願う。
自分の身勝手さには、ほとほと呆れるけれど。

「(だって俺達は、名前を持ってる)」

一人の人間としてが在る以上、思いを捨て去ることは、出来ない。
は、組まれた肩をいつものように適当に振り払った。

「あああー! ほらっ! また! そうやって!」
「うるさいなー」

いつ消えるとも知れない泡沫の時間を、共に理解してくれる彼だから。
だからこんなにも願うのだ。









140210




「エクソシスト・ブックマン・「ラビ」を意識して上手くいかない兄(若しくは妹)」
40,000hit、山椒様からのリクエストでした。ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします!