ザク、ザク。
ザク、ザク。

男は雪の道を歩いていた。

ザク、ザク。
ザク、ザク。

「おじさん、」

幼い子供の声。
男は立ち止まり、振り返る。

「だから、お兄さん、だっつの」

血の様に紅い髪が揺れる。
溜め息が、白く白く、空に昇る。

「ねぇ、かみさまって、ほんとうにいるの?」

子供がぐいと男のコートの裾を掴んだ。
その瞳があまりに透き通っていて、男は息を飲んだ。
それは数滴の罪悪で濁ってしまいそうな、酷く暗い色をしてはいたけれど。

「…いるよ」

だから、男は笑った。

「神様はいるよ」

そして、子供の小さな頭に手を置くと、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
子供は顔を伏せて、少しだけ震えていた。
その原因が寒さではないことくらい、男にもわかった。

「………うん」

足下で、ぽつぽつと、静かな雨が降る。

「ありがと………」

男はただ黙って、深く積もった雪たちが溶けてゆくのを見ていた。
悲しみの雨が、いつか、暖かい春をもたらすことを、祈りながら。

(ああでも、
俺は、誰に、祈るのだろう。)

『神様はいるよ』

それは優しい救いの言葉。








け。



2012.07.15掲載








ミザンの生みの親、神無月さんより。掲載許可を戴きました。
ありがとうございました!