燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
03.キライ
「師匠の馬鹿」
「……何だ出し抜けに」
林檎を食べ終えたが、ワインボトルを抱えてソファにうずくまる。
いつもよりほんの少しだけ空いた、二人の隙間。
「嫌い。ワインあっためてやる」
「やめてくれ」
手を伸ばすと、パン、と払われる。
どうしようも無くなったクロスは、反対のひじ掛けに凭れる。
がボトルと膝を抱えて、ますます小さくなった。
「何だ。何したってんだ」
「別に。ワインあっためてるだけですから、お気になさらず」
「だからそれはやめろ。ホラ、飲んでいいから注げ」
「自分でやれば」
そう言って、そっぽを向く。
わざとクロスに背を向け、ボトルを抱え込んだ。
俯く黄金。
「福音だけじゃ戦えないって言ったのに」
ようやく原因が分かって、クロスは思わず溜め息をついた。
夕方のことだ。突然街中に現れたアクマ達。
まだ上手く戦えないアレンと、逃げ惑う一般人を庇いながら、は戦っていた。
始めは彼の修業にもなるだろう、と暫く静観していたクロス。
しかし一般人を守る為に聖典を使おうとしたのを見て、手を出したのだ。
後ろから、の肩を抱く。
「少しは慣れろ。お前、オレが止めた理由くらい分かるだろうが」
「分かんないっ。あれは血を流すから貧血になるだけなんだってば」
「分かってんじゃねぇか。禁止だ禁止。この修業中は絶っ対に禁止だ!」
「だから! どうし……ッ」
振り向いたの唇を唇で塞ぎ、言葉を遮る。
舌を入れると同時に力の抜ける彼の腕からボトルを取り上げ、脇に転がす。
片手で腰を引き寄せた。
先刻までもくもくと食べていた林檎の味がする。
甘酸っぱさが、唇の温度とよく溶け合って、クロスをいつもより煽り立てた。
「(今度焼き林檎でも作らせてみるか)」
なかなか美味い。
自分の上にを座らせつつ、唇を離す。
額に額を押し付ける。
「お前に苦しんで欲しくねぇんだよ」
「いま……っじゅう、ぶん……苦しかった、け、ど……」
潤んだ黒曜石が愛らしくて、クロスはその瞳の側に口付けた。
熟れた頬。
思わず笑みが零れた。
「(ったく、どっちが林檎だか)」
再び口内を弄ぶと、今度は自然に首へ腕が回された。
陶器のような頬を、やんわり撫でる。
が軽くクロスの髪を引いた。
艶めく瞳に魅入られる。
「だめ……嫌い、師匠」
師は小さく笑って、弟子の耳元へ口を寄せ、囁いた。
「上等だ、馬鹿弟子」
(主人公15歳)
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