April Fool's Day Revenge!!















早朝であることも物ともせず、校内は賑わっている。
生徒達と擦れ違いながら、ティキはひどい顔で欠伸を噛み殺した。

「あ、ミザン先生だ」
「はよーっす!」

隣を歩くミザンは、掛けられた挨拶が全て聞こえなかったかのように、悉く無視している。
教師としてそれはどうなのかとティキは思うが、生徒はそれこそ物ともしていない。

「まーたあの人無視だよー」
「仕方ないよ、ミザン先生だから」

そんな言葉が方々から聞こえる。
例え挨拶一つとっても、ミザンが見返りを差し出すのは伯爵大先生だけなのだ。
その事は既に周知の事実であり、生徒も理解している。
否、だからといってやはり教師としてどうなのかと思うが。
取り敢えず。

「(俺、全員からスルーされてる……)」

先程から、ティキは擦れ違う生徒には必ず挨拶をしている。
それなのに何故、生徒達は挨拶も返さないミザンにばかり声を掛けていくのだろう。
悲しい、これは悲しすぎる。
その上何よりも腹立たしいのは、ミザンである。
ティキが生徒から無視される度に、奴はニヤリと笑うのだ。

「ああー! くっそ、おいミザン!」
「何ですか喧しい。黙りなさい」
「ひどっ!」

文句を言う前にティキの言葉は一蹴された。
ミザンの蔑んだ目が、また此方を見る。

「伯爵大先生様のお声を聞くために、私の耳はあるのです。
 私の聴力を消耗させる暇があるなら、不毛な挨拶を続けなさい」

遠くから女子生徒の悲鳴が聞こえた。
変態校長と、それに巻き込まれた憐れな弟子の居場所は、間違いなく其処だろう。

「いや、っつーかお前、挨拶返してやれよ。教師としてどうなの? ソレ」

ミザンが何か恐ろしいものを見たかのように顔を引き攣らせた。

「まさか……貴方に教師の何たるかを説かれるなんて……! 屈辱……!」
「お前にそう言われるのも大分屈辱なんですけど!」

お互いに相手をじっくり白い目で見つめ、ふんと顔を背ける。
ミザンが鼻で笑った。

「大体、教師として云々抜かすのなら、挨拶を返さない生徒を叱るべきではないですか? 
 私にちょっかいを出して、私の貴重な朝の時間を奪う、その前に」
「(……今、職員室向かってるだけじゃん……)」

思わず脱力しかけたが、話が逸れるので口には出さず、表情で訴えるに留める。

「いやぁ、叱りたくってもさぁ……」

遠くの悲鳴の持ち主は、いつのまにか可憐な少女達ではなく、稀代の変態校長に変わっている。
ティキは溜め息をついた。

「仮に怒鳴ったところで、やっぱり無視されるのがオチだからさぁ……」
「貴方やっぱり、向いてないんじゃないですか? この仕事」
「お前もそう思う?」

変態校長は、弟子に成敗されたらしい。
悲鳴は既に、女子生徒の歓声に様変わりしていた。
ティキは、しっかりセットしたのに早くも崩れてきた前髪を掻き上げた。
あの金色ほど、とは望まない。
せめてあの10%くらい。
いや、5%、いいや、せめて。

「(1%でいいから……俺の話、聞いてくんないかなぁ)」

深く長く、溜め息をつく。
ティキの変わらない一日は、こうしていつものように変わらず、始まる。









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160401