April Fool's Day Revenge!!















「おい、ミザン」

伯爵大先生の声では無かったから、不快な表情を返した。
これを歪んだ愛ととる人は多いが、他人は他人。
彼らはこの高尚な愛の形が理解出来ないのだ。

「……ご用ですか、校長」
「イライア、知らないか」

しかも掛けられた問いが、ミザンのライバルについてのものだったので、余計に表情が歪む。
何しろ話題の金色は、校長の愛弟子として赴任したくせに、伯爵大先生にまで気に入られているのだ。
後者において、なんておこがましい。
なんて羨ましい。
ミザンは肩を竦めた。

「さあ? 知りませんねぇ……逃げたんじゃないですか」
「逃げたとか言うな。ちょっと用事があるだけなんだ、きっと」
「分かりませんよ? そんなものプレゼントされたら」
「何だ、制服をプレゼントして何が悪い」

セーラー服を握り締めて頑なに言い張るクロスは、憐れだ。
笑える。
ミザンはくい、と眉を動かし鼻で彼を蔑んだ。

「何が悪いかは置いておいて……ティキの授業のフォローか何かが、最近の日課みたいですけど」

こんなに情報を与える自分は、校長に対してなんて優しいのだろうか。
内心満足したミザンの前で、クロスがハッとした表情で叫んだ。

「今は授業中か!」

こいつ、校長失格だ。









「……で、大豆がよく取れるから醤油が特産。ところで、醤油を使った食べ物、何か挙げられる人いる?」

ティキは教室の後ろから、彼の授業を見守る。
というより見せてもらっている。
何しろティキの授業とは、生徒の集中の度合いが違うのだ。

「じゃあ、はい、アレン」
「えぇっ! う、えーと……」

言い澱む弟に、イライアは優しい笑みを向けている。

「お前の好物なんだけどな。醤油で作った餡がかかってる……分かんないか?」
「好物? えー……あ、」

小さなヒントに、アレンは何か思い当たったらしい。
輝いた表情で顔を上げた。

「みた」
「イライアー!!」

バンッ
叫び声と共に勢いよく開かれたドア。
駆け込んできた赤髪の男に、全員の視線が集中する。
そんな中、イライアだけが顔も向けずに、男へチョークを投げた。
ゴッ

「ぐおっ」

およそチョークとは思えない音。
男は後ろへ倒れ込み、イライアは変わらぬ微笑みでアレンを見た。

「アレン?」
「み……みた、らし……だんご……」
「うん、正解」

何事も無かったかのように、彼は授業を進めようとする。
と、入り口付近で不審な赤髪の男、つまり校長が起き上がった。

「お前の愛はしっかり受け止めた!」
「日本料理にはたいてい醤油は入ってるから、他にも探してみて」

イライアは言いながら校長に近づき、その頭を蹴った。

「イライア、話、話を……」
「うん、話を続けますよ、校長」
「いや、聞け」
「今は俺の話を聞く時間ですよ、校長」
「ああ、そうなんだがその……」

革靴の踵で、グリグリメリメリと校長の頭が踏み付けられていく。
ティキは心底校長が苦手で嫌いなのだが、流石に可哀相に思えてイライアの肩を叩いた。

「あー、イライア?」
「すみません、すぐ授業に戻ります」
「いや、そうじゃなくて」

いつもと同じ、温かな微笑みの筈なのに。
何と言うか凄く、怖い。
そう思っていたら、彼の足元で校長が身じろいだ。
顔を赤らめ、ぐっと親指を立てる。

「……ナイスアングル……!!」

弟子が、廊下の端にぶつかるほどの勢いで師を蹴り飛ばす。
ティキは生徒達に自習の旨を告げた。
入り口に残されたセーラー服からは、誰もが目を背けた。









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160401