April Fool's Day Revenge!!















1

新米教師であるティキは、今日、2回チョークを落とし、1回黒板消しを落とし、3回生徒の名前を間違えた。
決して、普段からチョークを落とし、黒板消しを落とし、生徒の名前を間違えた挙句、
範囲を間違えて足元の段差で転びかけるようなダメっぷりを発揮している訳ではない。
ない、のだが。

「(何で居るんだよ……)」

教室の一番後ろに赤毛の男が立っていた。
授業中という場面にも関わらず煙草をふかし、寝ているのか起きているのか分からないぼんやりとした表情で。
しかしこの男こそが、この学校で一番の地位を持つ男。
つまり「校長」なのである。
正直、ティキはこの男が苦手だった。

「先生、『あ』が『お』になってます」
「つか、題名の漢字何か違うさ」
「背中チョークの粉だらけだぞ」

生徒達は全く気付かないのだが、ティキは、何となく、この男が発している殺気のような、
鋭く嫌なオーラを感じてしまうのだ。

「あー……悪ィ、俺、体調悪いから帰る……」

校長に気に入られなかったらオシマイ(つまり、クビ)なのだが、いかんせん、これ以上授業を続けても
恐らく失敗が重なるばかり……。
ティキは先生らしからぬことを言ってそそくさとその場をあとにすることにした。

「ティキ」

放っといてくれと祈る心を無視して、嫌な赤毛が廊下を歩むティキを追う。

「スミマセンけど、俺、今日はちょっと……不調で」
「俺ぁ、お前が不調じゃねー日を一回も見たことねーんだけど?」
「偶然、日が重なったんですよ」
「4回も?」
「……ええ、4回も」

人を縮こめるような威圧感。
それが、この赤毛の男にはある、とティキは思う。
言うなれば、今の自分は蛇に睨まれた蛙だ。
つまり自分は、目の前の男が、恐いのだ。

「ふーん」

面白そうに口元を歪める男の、鋭い瞳の色が。
隠された瞳の向こうが、恐いのだ。




2

「ミザン」

呼び止められて、薄紫の長髪がふわりと揺れた。

「何か? ……校長」

警戒されているなあ、と思う。
正しくは、「嫌われている」。
校長なんて、イイモンじゃない。
分かっているからこそ選んだ道ではあるが。

「ティキ、知らねーか。今日見に行ってやろうと思ってたのにいねーのよ」

頭を掻きながら、ミザンのモノクルに映る自分の姿をぼんやりと眺めた。
その向こうの青紫が少しだけ歪んで、もしかしたらアレは笑っていたのかもしれない。
――偏屈な理科教師の表情の変化なんて、知っても不快になるだけな気がするが。

「知りませんね。今日は来てないんじゃないですか?」

大げさに両手を広げて首を振るミザン。
人をイライラさせる天才の皮肉はとりあえず無視することにして。
あの新米教師をイジメてやらねーと。



ミザンの城(正しくは理科実験室)に今日は珍しく客がいる。
いつもの人体模型やガイコツや謎の生命体とは違う、普通の人間である。
ソイツは電気も点けずに暗がりの中でうずくまり、ひたすら「校長怖い校長怖い」と繰り返している――
いうまでもなく、新米教師ティキ・ミックその人である。

「適当に撒いておきましたけど」

ミザンの声に「ホンット助かる有難うゴザイマス」土下座状態のティキ。

「貴方も、ずいぶん大変な人に目を付けられましたねえ」

ミザンが楽しそうに笑う。

「アイツは人を苛めるために生まれてきたような男だから――」

ミザンもそういう人種に含まれるということを忘れているのか。
ティキは青い顔で言って、

「……何か言ったか?」

開いたドアの隙間からのぞく赤い髪にようやく気付き、

「ぎゃああああ!!!」

失神した。

「ティキ、貴方の死体は見晴らしのいい丘の上に埋めてあげますからね……! 存分に解剖した後で!」
「やっぱ面白れーな、コイツ」

薄れゆく意識の中で。



★おまえらグルだったのか……!!!が遺言ですってよ。




3

「ティキちゃんティキちゃん」
「(死ね!)……何でしょうか校長先生」
「近々、オレのかっわいーい弟子が新米教師としてココに来るから」
「弟子……」
「手ェ出したら殺すぞコラ」
「いやいやいやいや何でそーなんのスイマセン」
「ってことでよろしく。オレはしばらく『オネーチャンとアメリカドキドキウフウフの旅』に行ってくる」
「何だよそれ!? 俺も行きてぇー」




4(時間軸的には、ここからティキが新米教師ではなくなります)

「イライア先生、イライア先生!」

イライアが新米教師としてやってきてからというもの、生徒たちからシカトされるようになってしまった。
ティキは、ぼんやりと空を見上げてみる。

「(ああ……空が青いなあ……あの雲、ウマソーだなあ……)」

彼が早く職場を変えてくれないものかと小さく祈ってみる。
と、「どうしました? ティキ先生」その新米がこちらに話しかけてきた。

「うわっ……イライア先生」

うわっとか言ってしまい慌ててその名前を記憶から引っぱりだす。

「体調でも?」

金色の髪をさらさらと音を立てるように自然になびかせて微笑する新米教師。

「……」

コイツには勝てない、とティキは思った。



★来てすぐの二人。最初はティキはイライアを好きではなかったんだよ話1




5

「イライア先生は、どうして先生なんかに……?」

自分がそれについて後悔しているわけなので、ティキは言った。
このいかにもおぼっちゃまん青年に嫉妬しているというのが本当の理由だが。
別の仕事探せよボケ! というやつである。

「あ、俺のことは呼び捨てでも構いませんよ、ティキ先生。 嬉しいんだけど、俺はまだ、本当新米だし……」

困ったように笑って、イライアが続ける。

「俺が先生になろうと思ったのは、子供たちが好きだからですよ」

神様がもしいるのなら、こういう顔をしてこういう風に笑うのだろうと。



★最初はティキはイライアを好きではなかったんだよ話2




6

職員室の端にある自分のデスクの上に、巨大な美少女フィギュアがどでんと置かれていた。
全長およそ160cm。
デスクの上に置いてあったプリント類を踏みつぶし、天井にぶつかりそうな勢いで佇んでいる。

「うわー……」

こんな無駄な嫌がらせを自ら歓んで楽しんでするような人間は一人しかいないので、
ティキは穴があったら入りたいむしろ校長を殺したいという気持ちでデスクへ近寄る。

「ティキ」
「ミザン、コレどかすの手伝ってくれ……」
「嫌ですよ気色悪い。校長から伝言があるので伝えます。『手紙はスカートの中』」
「……マジで?」
「マジですね、残念ながら」
「……」
「実際は私にセクハラ的発言をさせようという魂胆が見え見えな伝言だったのですが
 さすがにそれは。少年誌ですし」
「校長……つか俺が美少女フィギュアのスカートをまさぐるのはアリな訳?」
「等身大ですからね。……うわ、キツ」




7

「ちょ、ちょっティキ」
「何」
「マラソン大会って教員も参加するって本当ですか、嘘ですよね嘘でしょう嘘だろ」
「いや、マジだけど」
「ええええええ」
「俺は面倒ではあるけど割と楽しみにしてるけど。走んの好き」
「ベッ●ム様の意見は聞いてないです。動機息切れその他を理由に欠勤しても構いませんよねそうですよね」
「老人かアンタは。まあいーんじゃないの?
 でも、アレだ、アンタの大好きな伯爵先生様の勇姿が拝めんじゃないのかと思うけど」
「誰が休むなんてそんな馬鹿な事」
「……」
「……」



「ティキ」
「何」
「見事1位かと思ったら4位でしたね」
「……言うなよ」
「途中の給水所にあった水がティキのだけ青汁だったのは私の所為です。すいません謝ります」
「お前かあああ!!!」
「だって伯爵大先生様を抜かすなんてティキでも許せませんよ!」
「逆ギレするのかそこで……! つか、あのヒト人間じゃない。
 ほとんど光の速さで俺を追い抜いていった……校長といい勝負だったよ……」
「校長は流石ですよね。ゴール目前で通行人の女性を口説き、それなのに2位」
「ありえねえよ……なんの奇跡なんだ」
「でもティキ。いくら青汁にしかも鈍足エキスが入ってたからといって、新米教師に抜かれるとはねえ……」
「鈍足エキスって何だオイ? あいつの足の速さもありえねえ……
 つか何で数々の障害物を、まるで予測していたかのようにヒラリとよけるんだ……全部見事に俺に的中したよ」
「ハハハハハ!!」




8
T=ティキ、E=イライア、M=ミザン

E「ティキ先生!」
T「おう、イライア。どうした?」
E「そろそろ球技大会が始まりますね」
T「フフフ、見てろよ俺の世界級のスパイクを!」
M「あ、なんかバレーはなくなったらしいですよ」
T「えええええ!! マジでか!」
E「残念ですね、ティキ先生(笑)
 ちなみに俺も参加することになったんでよろしくお願いします。手加減してくださいね」
M「私は勿論不参加なのでよろしくお願いします」
T「おう。って、ミザンお前……!」
M「手を怪我すると解剖が出来なくなりそうで怖いです」
T「超個人的な理由だ……」
E「でも、そういえば今回は伯爵先生が全部の試合に参加するって話じゃ……」
M「うっ……!!! ……くっ……し、仕方ありませんね……!!!(笑顔)」
T&E「「……」」




9

「もうすぐクリスマスですね」
「あー、うん」
「予定とかないんですか」
「……無いね」
「そうですか」
「……」
「……学校でクリスマス会をやるらしいですよ」
「クリスマス会?」
「校長の要請(ワガママ)で」
「イベント好きだなホント」
「ええ、こっちはいい迷惑ですよ。等身大の校長ケーキを作れとか言われて」
「またそのネタかよ……! ナルシストにもほどがあるなあの変人代表」
「今、チョコでコーティングするか、ホイップで色々と曖昧にするか迷ってるんですがどう思います?」
「……『色々と』って何……つーかミザンって料理できんの?」
「色々と……やっぱり服は着た方が良いのではと思うんですが……校長(のセクハラ)命令ですし……
 ボソボソ……
 失礼ですね、私の料理はフランスのパティシエ並みですよ」
「意外ー!」
「本気で驚いた顔で言いますねえアナタ……ほんっと失礼ですよ」
「だってなんか……何も食ってなさそうなイメージが」
「当たってますけど?」
「料理する機会なくね? つか食事くらいしろよ」
「何を戯言を。料理とは発明とイコールであって理系の教師として料理は欠かせない持つべき能力です。
 そもそも料理の始まりは以下略」
「……作ったら食うだろ普通……」
「小食なもので」
「……スイマセン、ミザン先生、正直なところ、ちょっ、白状していいっスか……」
「……何ですか」
「俺の為にメシを作ってくれ」
「……プロポーズですか? 断ります、断固拒否」
「いやホント正直……飢え死ぬんだって」
「ティキもついにソッチに走っ」
「違う違う違う違う!」




10

「貴方が好きです、ケッコンしてください」
「……は?」
「って言われたことあります? 生徒とかに」
「まぎらわしい始め方すんなよ……多分、無い? かな」
「おっと怪しいですね、いや怪しい。『?』あたりが特に」
「さすがに生徒からプロポーズはないよ、ない。うん、無い」
「繰り返し言うのはそれを打ち消そうとする自らの意思が働いている為、と」
「何を読んでんのかな、ミザン君」
「……少々、心理学の本を」
「オレはアレか、実験台か」
「そうですが何か?」
「……絶対教えねー」
「それはつまり『肯定』ということですね?」
「ホントウザいんだけどコイツ何とかして……!」




11

「ティキ」
「何」
「ヤッていいですか」
「……は?」
「むしろヤらせろ」
「ちょま……何で?」
「これを見ろ」
ビッ
「何だこれ、……手紙?」

『ミザン先生へ
 私はミザン先生のことが、ティキ先生の次に大好きです。
 顔なら同じレベルだと思うんですけど、どうかなー(笑)』

「うわ……ウザッ」
「……」
「で、何だよ」
「貴方を殺して私が貴方になる」
「へ、」
「一番合理的かつ確実な方法だと思いません?」
「あー……ヤるってそーゆー意味ね……うん」
「?」
「いや、いやいやいや。つか殺られるのも困るんですけど。
 何でいつも俺がこーゆー目? 何? 何がしたいわけ作者は」
「1stの座は私のものだあああ!!!!」
「キャラ違うキャラ違う!!! うわっ、ちょ、まてよ……ってキ●タク違う! だれかあああああ……!!!」



★「……またやってるよ……」byイライア









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