燔祭の羊
<ハンサイノヒツジ>
11'New Year's Eve 「去来」
「ねぇねぇ」
「あ?」
「お酒って美味しいの?」
がワインの瓶を抱えてこちらを見る。
酌をさせた手前、クロスは少し答えに困った。
「……お前にはまだ早い」
期待を込めて、輝いた瞳。
「じゃあ美味しいんだ」
答え方を失敗したと確信する。
こんな時まで、彼の空気は有効なのか。
厄介で堪らない。
クロスは根負けして、今しがたワインを注がれたばかりのグラスを渡した。
「ほら」
「飲んでいい?」
「瓶落とすなよ」
林檎を渡した時のように、彼はじっとグラスを見つめる。
中で揺れる紅い液体を、漆黒に、そのままそっくり映す。
彼にはやはり、赤が似合う。
この背に、近い未来、黒を背負わせるなんて。
「美味しいね、コレ」
その言葉に、に目を向けた。
彼は空のグラスに瓶を傾けようとしている。
「おま……っ、全部飲んだのか!?」
「え、駄目だった?」
けろりとして尋ねる。
慣れた手つきでワインを注ぎ、グラスを口へ運ぶ。
呆気に取られていたクロスは我に返った。
「いや、待て待て待て!」
「ん?」
水のように半分程飲んだところで、は不思議そうにクロスを見た。
クロスは言葉に詰まり、結局溜め息をついた。
「ったく……今グラスに入ってる分だけだぞ」
「えー、何でー?」
これから酌をさせるたびに、飲みたいとせがまれるのだろう。
そしてきっと、グラスを渡してしまうのだ。
クロスは頭を抱え、しかし同時に、少しだけ笑った。
彼の飲み方に、よく似ていたものだから。
(主人公11歳)
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